■はぎちゃん

昨晩、20年来私をひいきにしてくれていたお客様が亡くなった。
はぎちゃん。

はぎちゃんとは20年ほど前に、当時私が勤めていたキャバクラで知り合った。
その日は夕方から雨が降っていた。
私は、自分のお客様がまだどなたもいらしていなかったので、店で働かずに待機していた。

そこへこの店初めてだというお客様がいらっしゃり、手の空いている私が接客することになった。
はぎちゃん。
急に降り出した雨に傘もなく、この後の用事まではまだ少し時間があるので、雨宿りのつもりでこの店に立ち寄ったと言う。
事情を聞いて、私は一番のお気に入りの傘しかその時持っていなかったのだが、初対面のはぎちゃんにその傘を貸した。

これを機会に、はぎちゃんは私に会いに頻繁にその店にいらしてくれるようになった。

はぎちゃんは粋(イキ)な人だった。
面白さと意外性を好む人だった。

ある時、店がはけた後、深夜も営業している青山ブックセンターに私を連れて行き、「欲しい本を好きなだけ買いなさい」と言ってくれた。
私はかかえきれんばかりに、高価で自分ではなかなか手の届かない写真集を好きなだけ選んだ。
ハンス・ベルメール、四谷シモン、金子国義・・・・
その後どれだけこの時の写真集をながめただろう。
ボロボロになるまでながめ、2008年リサバーを閉店し引越しの際にやむなく手放すまで、どれだけ私の心を和ませただろう。

時が経ち、私は自分のバーを持った。
はぎちゃんが開店祝いに来てくれ、「これ、覚えてる?」と一本の傘を私に渡した。
初めて会った時、私がはぎちゃんに貸した傘だった。
そいえば、その傘は貸したきり返ってきていなかった。
「今まで、リサと自分をつなぐ大切なものとして、大事にとっておいた」と。
傘は、当時と同じく新品同様で、私の元に返ってきた。

はぎちゃんが奇病にかかったのはその後のことだった。
日本人で数十名がその奇病にかかっていて、はぎちゃんは病院で、まるで実験台になっているようだったが、文句の一つも言わなかった。

リサバーを閉店する時、その後の店の借り主あやちゃんを紹介してくれたのもはぎちゃんだった。
私が今、土曜日だけ借りて営業できるのも、現在はそこがあやちゃんの店だからだ。

最近は、60歳にしては随分とおじいちゃんのようになってしまっていたが、街をスキップして歩いたり、相変わらず気持ちの若い人だった。

そして昨晩、原宿で倒れ、亡くなった。

2月29日のうるう日に亡くなるなんて、ユーモアの大好きだったはぎちゃんらしい。

長い間、たいへんお世話になりました。
数え切れないたくさんの思い出をどうもありがとう。
笑いをありがとう。
いつも私を褒めてくれてありがとう。
いつも気にしてくれてありがとう。

そちらの世界でも、多くの人を楽しませて楽しんでください。
心からご冥福をお祈りいたします。

■コメント

■Re: はぎちゃん [マヤ]

ご冥福をお祈りします。

■ [ひろ]

なんか希な大雪だったし、人々に忘れられないような日が命日になったね。傘や本の話も素敵。29日を私は福の日と読んでいて、幸せ、人からの親切を意識してさがして感謝してる日。

■ [ジュン]

お世話になった方が亡くなられるという話よく聞くようになりました。俺もありました。ご冥福をお祈り致します。

■Re: [リサ]

>マヤ
親しい方が旅立つのは寂しいです。

>ひろ
29日はフクの日。いいね。私は肉の日。
肉体について考える日にしようっと。

>ジュン
しみじみ思い出して寂しくなります。
ついつい「死んじゃったの?」って電話したくなります・・・
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リサ婆

カレー屋歴3ヶ月
バーのママ歴
中野で4年
歌舞伎町で11年
海外旅行歴
人生の中で延べ約4年
約50ヶ国
春から間借りでカレー屋を始めましたが、7月31日閉店しました。

!注意!お願い!
本文中、イスラム教を国教とした国の事を「イスラム国」と書いたのがたくさん出てきますが、それを書いた時点ではまだイスラム国(ダーイッシュ、ISIS)が無かったため、そのような表記になっております。
ですので本文中にある「イスラム国」は、ISISとは関係なく「イスラム教の世界」「イスラム教を国教とする国」というニュアンスでお読みください。

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