■2011年10月

■チャンスの神様

チャンスの神様には前髪しかない、と聞く。
すれ違った後に振り返っても、神様には後ろ髪はないのでつかまえることができない。
出会った時にすかさず前髪をつかまなければ、チャンスは逃げてしまう。


私は今年の3月に帰国したあと、鎌倉に拠点を置いている。
早い話し、実家が鎌倉にあるので、そこに居候している。

仕事は土曜日に新宿で、週1日だけバーを借りて営業しているが、仕事と言うには中途半端すぎる。
そこで最近、地元鎌倉で店をやろうかしらなんて考えて、暇をみては鎌倉駅周辺に物件探しに行っている。
私が鎌倉駅周辺をこんなにも歩き回るのは、小学校卒業以来はじめてのことで、駅の周りも小町通りもだいぶ様子が変わった。

今日も、人づてに聞いた物件を見に小町通りへ行っていた。
いつもなら、どんなチャンスがあるか分からないからと、電車やバスに乗るような外出には一応化粧などほどこすのだが、小ギレイにして出かけても一向に何のチャンスもない今日この頃なので、今日はいつになくスッピンで出かけた。

なかなかに感じの良い物件を見たものの、その家賃の高さに迷いながら、他に見る物件も無いので帰宅しようとした時、鎌倉駅のまん前でチャンスの神様が天から降りてきた。

私は小学校は鎌倉駅近くの学校に通っていたが、それ以降はあまり駅周辺に縁がなかった。
大学に入るとすぐに東京に出てしまい、それからずっと東京で生活していたので、地元鎌倉の友達はほとんどいない。
鎌倉に地元の友達がいないというのは、鎌倉で店を出そうとしている身にはツライなと感じていたし、ついさっきまで真剣にそれを考えていた。

鎌倉駅と隣り合わせた店で買い物し表に出たとたん、ヤケにド派手な格好だが、しかしセンスのいい背の高い男性と鉢合った。
目と目が合った。
瞬時に感じた。
彼は小学校の同級生のH君だ、そのギャグ的な行動にいつも楽しさを感じていたクラスメートのH君だ、いや、たぶんそうに違いない。

小学生のころ彼の実家は鎌倉駅近くで商売をやっていた。
彼はご結婚なさり、家を継いだが、数年前に病気で倒れたと聞いている。
たまに、彼は今どうしているのかなと思うこともあった。

しかし、小学校卒業以降30年以上も顔を合わせていないし、スッピンで買い物袋からネギが突き出していた私は、同時に、たとえそれが本当に彼であったにしても、いや、私は彼だと確信したが、彼は私だと気づいていないだろうと瞬時に勝手に結論付け、むしろ気づきませんようにと、その場をそそくさと去った。
しかしその直後には、私はすでに後悔していた。
振り返って彼に話しかけようかとも思ったけど、それより先に、なんでこんな時に限ってスッピンで小キタナイ格好なのかという気持ちの方が強かった。
しかしその場を離れるに従い、たとえ小キタナクてもこれは主観的な問題なのだし、その愚かなプライドのために、30年ぶりの偶然の再会を喜ぶこともできず、私はとてつもなくバカで愚かな人間だという気分になった。
それは今の私の格好よりも、はるかにミジメな気持ちだった。

チャンスの神様は行ってしまった。

一人の人の興味深い人生の話しを聞くことができなかっただけでなく、私が今一番欲している、地元の人との交流を失った。

チャンスの神様に後ろ髪が無いのは本当だと思う。
また、私の元に降りて来てくれるだろうか?
その時私は、チャンスの神様の前髪をつかむことができるのであろうか?

考え込んでしまう。

リサ婆

カレー屋歴3ヶ月
バーのママ歴
中野で4年
歌舞伎町で11年
海外旅行歴
人生の中で延べ約4年
約50ヶ国
春から間借りでカレー屋を始めましたが、7月31日閉店しました。

!注意!お願い!
本文中、イスラム教を国教とした国の事を「イスラム国」と書いたのがたくさん出てきますが、それを書いた時点ではまだイスラム国(ダーイッシュ、ISIS)が無かったため、そのような表記になっております。
ですので本文中にある「イスラム国」は、ISISとは関係なく「イスラム教の世界」「イスラム教を国教とする国」というニュアンスでお読みください。

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