■寧夏回族自治区

■中国*寧夏回族自治区*銀川(インチュアン)*「たび重なる事件③」

パトカーでホテルに向かうことになった。

初め乗り込んだパトカーはなぜかエンジンがかからなかった。
乗り換えようとしたパトカーは、運転席の扉以外開かず、しばらく数人であれこれやっていたが、結局運転席から乗り込んだ。
警官達は大笑いしていた。
こんな事、不思議だよ、可笑しいね、と警官の一人が話しかけてきたが、私は笑えなかった。

ホテルでは、3人の警官と私を見て、先ほどのフロントの女の子が心配顔になった。

そして、警官達が豹変するのを見た。

今までの私への態度と180°変わった。
強い口調で何か言っている。
女の子は完全におびえていた。
初めて見る男性が現れ、たぶんこのホテルのオーナーであろう、彼が対応をした。

しばらくやりとりが続き、台帳やらなにやらチェックを受けていた。

その間、オーナーらしき男性は、しきりにタバコとお茶をエリートに勧めていたが、エリートは断っていた。

私はそばで様子を伺っていた。
申し訳なくて、顔を上げることができなかった。
30分ほどやり取りは続いた。

オーナーにもフロントの女の子にも引きつった笑顔が現れてきた頃、エリートは私に言った。
「あなたは今晩と明晩の2日だけここに泊まっていいですよ。」

エリートは私が翌々日のフフホト行きのチケットを持っていることを知っている。
だからそれまでここに居ていいというのだ。
ということは、ホテルも営業停止ではないのだ。

意外な展開だった。
何をどうしてこういう展開なのか、私の予想は狂ったが、安堵感と申し訳なさで胸がいっぱいになった。

以前、英語を話す中国人の5人兄弟(!)の女の子が、中国はお金を払えば何とでもなるのよ、と私に言ったことを思い出した。

お金の力でなんとかなったのであろうか?
私にはわからない。

エリートは言った。
「長い時間でお腹もすいたでしょう?一緒に晩ご飯食べませんか?」
とてもお腹は空いていたけど、とてもじゃない、一緒にご飯なんて食べる気になれない。
疲れているからという理由で断った。


この結果を私は安堵していいのか、いまだ複雑な心境にいる。

■中国*寧夏回族自治区*銀川(インチュアン)*「たび重なる事件②」

ホテルの女性に連れられ、公安警察で、大まかな事情を彼女は話してくれたようだった。

確認のため、私も警官に大まかな事情と、被害証明が欲しいことを伝えた。
私に少し待つように警官が言い、彼女は安心して帰っていった。

しかしその公安内は私の被害届けどころではなかった。

私が座らされた椅子から、開きっ放しの扉の隣の部屋の一部が見えた。
その奥から、男の泣き叫ぶ声が響いていた。
それは悲鳴に似ていた。
その男は尋問(?)を受けている様子だった。
何か壁に叩きつけるようなゴンゴンという鈍い音やら、時たま怒鳴り声も聞こえる。
入り口に靴が1足放り出されていた。
床上30cmにはパイプのバーが備え付けてあり、手錠がぶら下がっていた。
入れ替わり立ち代り、複数の警官が出入りしている。
新聞紙にくるまれた長い棒状の物や、私にはどう使うのかさっぱりわからない物体を持ち込んでいる。
現場は見えなかったが聞くに堪えず、いつまで待つのか尋ねたが、まだ待てと言う。
2時間程その状況の中待たされた。

仕方ないので、警官達のランク付けをして時間を潰した。
誰が上司で誰が下っ端か。

そのうち隣の部屋は静かになり、救急と書いた大きなカバンを持った白衣の人が、武装警察と共に現れ、同時に私にもラフな格好の通訳がやって来た。

その人は今まで私が付けたランクでいきなりトップにおどり出た。

彼は通訳ではなかった。
自ら私に流暢な英語で質問してきた。
なぜ、盗難だと思うのかから始まり、合作の町で訪ねられたような、旅行に関しての細かい話しを訊かれた。

そして当然の質問になった。
「どこのホテルに泊まっているんですか?」
答えると、部屋の空気が変わった。
私は瞬時に理解した。


中国にはホテルは2種類ある。
外国人が泊まっていいホテルと、いけないホテル。
それは私達ツーリストには一見しただけでは判らない。
訪ねて断られれば、外国人を泊めてはいけないホテルだ。
しかし貧乏旅行者が泊まるような安宿は、外国人を泊めるライセンスを持っていないのに、こっそり泊めていることがほとんどだ。


いきなりそのエリートが警官達に指図を始めた。
そして私に言った。
「あなたはこの後、私が紹介するホテルに移らないといけません。あなたが泊まったホテルは外国人を泊めてはいけないホテルなのです。」

あのホテルが摘発される!

私は歌舞伎町で何度も、いや何十回も、店が摘発される現場を見ている。
容赦なく、店内の重要なものは運び出され、その日からその店は営業停止だ。
そして従業員は逮捕され、しばらく刑務所暮らしだ。

今朝丁寧にバスターミナルへの行き方を教えてくれた女の子や、カメラを無くして相談に乗ってくれた2人の女の子、ここまで連れてきてくれた女性、のことが頭に浮かんだ。

なんてことになってしまったんだ!
被害届けなんて出さなきゃよかった!
私のせいでこんなことになるなんて!
自分に悔しくて涙が出てきた。

そしてエリートはにこやかに、私にカメラの盗難被害証明書を渡したが、私はちっとも笑う気になれなかった。

■中国*寧夏回族自治区*銀川(インチュアン)*「たび重なる事件①」

ここ銀川は、
中国史が好きな人には、「西夏王国」の首都だったところ、と言えば分かるのではなかろうか。
食べ物好きには、「クコ」の産地、と言っておこう。
クコの実を、お茶に入れて飲むことを、前の都市蘭州で覚えたので、日本では高価なこの実をやや多めに買いだめをした。
また、この実は酒に漬け込むと、滋養強壮酒になるという。

そしてここは乾燥している。
日本から持ってきた「メンソレータム薬用リップ」はここでは役立たずになった。
つけてもつけてもすぐに唇が乾燥する。
だから洗濯物も乾くのが早い。
成都では2~3日乾かなかったが、ここでは半日で乾く。
喉も渇く。


銀川に到着した翌朝、フフホト行きのバスの出るターミナルへの行き方を、宿のフロントの女性に訊いたら、実に親切丁寧に教えてくれ、かなり遠くの場所だったが、迷うことなくすんなりとそこへ行けた。
そもそも私は、宿のフロントの人が気に入らないところへは泊まらない。
だから私の泊まる宿の人は皆、優しく丁寧で感じのよい人ばかりなのだ。

バスターミナルの手前に空き地の面白い風景があったので、それを写真に撮り、カメラをいつも通りカバンのいつものポケットにしまった。

歩いてここへ来るまでに、この町は3泊すれば満足するだろうとふんで、翌々日のフフホト行きのチケットを買い、ターミナルから公共バスで街で一番大きい公園へ行った。

公園では子供達が凧揚げをしていて、凧屋がたくさん出ていた。
日本の凧とはかなり趣が違って面白かったので、その風景を写真に撮ろうとした。

ところがだ、無いのだ。
カメラが無い。
カメラだけが無い。

自分を落ち着かせ、全身全部探したが見つからなかった。
最後に写真を撮ってから、1時間は経っていない。
その間、どこでどうして無くなったのかさっぱり見当がつかない・・・・

脱力した。
この旅のすべての映像が入っているだけでなく、ロマンと一緒の1週間にロマンのカメラで撮った写真やビデオもすべてもらってその中に納めていた。

もう見つからないと分かっていた。
この街がやけに広く感じた。

しばらく公園にたたずんでいたが、諦めは案外早くついた。
財布もパスポートも無事だ。

私はクレジットカードを持っており、それには日本出国後3ヶ月間の保険がついている。
おそらくスリに遭ったのだから、盗難被害証明をもらい、保険を適応して新しくカメラを買おう!

近くの人に、警察はどこか訊いたが知らないと言われた。
ここは都会。
誰が地元の人で、誰が観光客なのか、私には分からなかった。

こういう時は宿に帰って相談しよう!

宿のフロントで事情を筆談すると、横でそれを聞いていた掃除人の女性が、
「20分待ってて。そしたら私の仕事が終わるので、警察に一緒に行って、事情を話してあげる。」
と言ってくれた。
心から有難いと感謝した。

が、私は、結果的にこの恩を仇で返すこととなってしまった。

リサ婆

カレー屋歴3ヶ月
バーのママ歴
中野で4年
歌舞伎町で11年
海外旅行歴
人生の中で延べ約4年
約50ヶ国
春から間借りでカレー屋を始めましたが、7月31日閉店しました。

!注意!お願い!
本文中、イスラム教を国教とした国の事を「イスラム国」と書いたのがたくさん出てきますが、それを書いた時点ではまだイスラム国(ダーイッシュ、ISIS)が無かったため、そのような表記になっております。
ですので本文中にある「イスラム国」は、ISISとは関係なく「イスラム教の世界」「イスラム教を国教とする国」というニュアンスでお読みください。

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